本書では「なぜ日本人は陰翳(うすぐらいかげ)が好きなのか」という大前提に基づいて、日本の美に対する考え方を解体しています。
著者・谷崎潤一郎氏は、日本の建築や工芸品(広義の意味での日常の文化)は薄暗い場所でこそ、その美しさが際立つように設計されているという。
独特の谷崎美学に添えて、より深い気づきを与える本書のビジュアルは写真家・大川裕弘氏。「空気を撮影する写真家」と称されるその人の絵づくりには、薄暗さの中にさすわずかな光で繊細な日本の美を表現しています。挿絵的に使われている写真にはうっとりため息が出ます。

「陰翳礼讃」はかなり以前に学校の図書館で読んだことがありました。その時はずいぶん難しい本だと思っていましたが、昨年あたりに写真付きのビジュアルブックの体裁で再発売された本書を買ってきて読んでみました。写真がつくだけで理解度はぜんぜん変わります。
寝る前の10分。部屋の明かりを少しだけ落として、梅雨の雨音を聞きながら贅沢な時間を楽しむ。
デザイン従事者はもちろん、建築家、写真家、音楽家、美術系の学生、必読の書という前置きに疑う余地はありません。良書です。